お頭ののったぎょせんで、
ふしぎなことがおこったのは、
それからまもなくのことです。
「たすけて!たすけて!」
ぎょせんのてっぺんで、
てしたの漁師たちにしじをしていたお頭は、
うみのどこからか、
たすけをよぶこえをきいたきがしました。
目をこらして、あたりをみまわすお頭。
すると、さけびごえは、
こんどはいよいよはっきりみみにとどきました。
「だれかたすけて!だれか!」
お頭が目にしたのは、なみだつすいめんに
いまにもすいこまれてしまいそうになりながら、
ひっしでもがいているおんなのひとだったのです。
「お、おれのいもうとが!おぼれている!!」
それはいぜん、
まちに奉公にいった
お頭のいもうとではありませんか。
お頭はけっそうをかえ、さらにさけびます。
「おい、だれか、ロープとうきわを!
はやく!いそぐんだ!」
けれども、ぎょせんにはロープもうきわもなく、
漁師たちにもなすすべがありません。
お頭はぎょせんのうえから、
ひっしのぎょうそうで
いもうとにこえをかけつづけました。
「おーい!おーい!だいじょうぶか?おーい!」
けれども、いもうとはもう、ちからがつづかず、
かおがすいめんに見えかくれするぐらいに。
お頭はいてもたってもいられなくなり、
さっぱりおよげないこともわすれ、
うみにとびこんでしまいました。